子どもの「SOS」を聴き取ってほしい
「自殺対策基本法」が一部改正されまして、今年(令和8年)から施行されます。その背景には、令和7年に小中高生の自殺が「538人」と過去最多となったことがある。法改正を機に、学校側も、「子どもの自殺予防」について社会と連携して積極的に取り組んでいきましょう、という動きに。そういった中で、学校から先生向けの講演をご依頼いただくことがあります。
最初の打ち合わせでは、「最近、生徒とかかわって、悩まれることは?」と先生方によく尋ねます。すると「リストカット(自傷行為)やオーバードーズ(薬の過剰摂取)する子が増え、低年齢化している。どうすればいいか?」というご相談を受けることも。
例えば、リストカットをしている子に対面したとき、多くの大人は、「やめなさい!」と言う。「この子を指導して変えなきゃいけない」と思ってしまう。しかし、当事者の子からすると、リストカットで一時的な安堵感を得られる。「自分がどうにかなってしまいそうだ!」と苦しいとき、それをすることが「唯一の救いなんだ」という子がいっぱいいる。皮膚を傷つけたとき、「ケガをした」と判断した脳が、痛みを和らげる快感物質の「βエンドルフィン」を分泌するそうです。だから実際、「生きるためにやっているんだ!」という子ばかり。
「リストカット」という行為を大人が一方的に取り上げると、むしろその子は、自分の苦しみを和らげる手段を奪われ、余計に追いつめられてしまう。真の問題点は、「リストカットをしていること」や「リストカットをしている本人」ではなく、「リストカットをしなければいられないほどのつらい悩み・背景」にあります。「リストカットをしている子」イコール「問題を起こしている子」ではありません。「何かの問題に苦しんでいる子」であり、「助けを必要としている子」と考えてほしいんです。問題の現れは、その子によってさまざま。「不登校」であったり、「家出」であったり。それは、「声にならないSOSのサイン」なんです。相談される先生方や親御さんには、いつもそうお伝えしています。

子どもの自殺増加の要因を考えてみる
子どもの自殺が増える要因については、私も自分なりに調べたり、考えたりしています。諸説ありますが、まず「ネット」は大きい要素だと感じています。
よく言われるのは、自殺につながる情報へ容易にアクセスできること。悩んでいる子が、自殺を考えたり、行為に及ぶことを助長するような記事は、ネット空間にあふれています。有名人の自殺報道も、きっかけになったりしてしまう。また、ネット上で、悩んでいる子が、悩んでいる子の悩みを聞き続ける中で共倒れする場合も。ところで、悩む子の心理につけこんで依存関係にし、トラブルや犯罪に巻き込む「悪い大人」が存在することは、大きな社会問題です。
さらに、「ネット」による情報処理の過多で、脳が疲れてしまうこと。小学生からスマホを持つことが増え、しかも常に手離せない。小さい頃から、次から次といろんな情報が入ってくる。睡眠時間も削れて、集中力もそがれてしまう。それが、日々のしんどさにつながっているかもしれない。大人にも言えることですが。
また、ネット上の「濃密な」人間関係へのストレス。学校から帰宅しても、その関係は切れずに続くわけです。良い距離で付き合えるときはいい。例えば、オンラインゲームなどでも、自分が無理して相手に合わることが続くと辛い。いじめなどのトラブルが起こると、外部の目が入りにくく、こじれが深刻になる。
矛盾するようですが、ネットのきつさは、人間関係の「希薄さ」にあるとも言える。コロナ禍で女性の自殺率が急増しました。当初はよく言われたのは雇用問題ですが、子どもでも女子の自殺率が高くなっている。人とのコミュニケーションがSNSやzoomで増えたかもしれませんが、対面でのコミュニケーションは2020年から3年間は急激に減少。そのことは、男子に比べて、普段から他人と話すことで自分をケアすることの多い女子の方が、精神的にダメージを与えることなのかもしれません。
「不登校」で救われるのは親
「不登校」は増えています。ネットニュースでも、「不登校がこれだけ多いと問題だ」と。
でも、そのこと自体、果たして悪いことなんでしょうか? 学校に行かないことで、助かった子もたくさんいるはずなんです。行けない背景は、子どもによってそれぞれ違う。学校がつらいからだとも限らない。心身の不調、人間関係のこじれ、いじめに遇っている、家庭での様々な問題の影響、生まれ持った気質が学校の環境と合わない、理由が分からず心身が拒否する…それで無理やり行かせようとすると、さらに体調や精神状態が悪化。そんな中で、「命を終わりにしたいと考えた」という子が何人もいました。実際に行かなかったことで、命を守れた子がいる。高校時代の私もその1人です。親御さんからすると子どもが不登校になることへの不安もあるでしょうけど、「実は子どもが不登校という形で自分の命を守ってくれて、子どもを失う悲しみを背負うことなくいられているのかもしれない。だとしたら、親である自分は子どもの不登校で救われたのかもしれない」と、1度考えてみてもらえたらと思います。
一方で、「不登校になりたくてもなれない」と限界ギリギリな中で無理して登校している子もいる。中学までの私がそうでした。そういった子に対して「学校に行きたくなければ行かなくていいよ」と単に呼びかければいいわけではない。その子には、逃げ場のない状況・背景がある。そのような場合、家や学校以外のどこかに居場所を見つけることが1つの選択肢になる。
何気ない会話が、子の心開く
不登校のお子さんを持つ親御さんに勧めることがあります。一緒に買い物に行くなど、親子の時間をつくることです。近所のスーパーに行けば、同級生に会うかもしれない。ちょっと車で遠出して、大きめのスーパーに向かう。車中、「学校どうすんの?」という話はぬき。子どもが関心のあることとか、楽しいと思うことを尋ねる。菓子コーナーでは、「あんた、どれが好きなの? お母さん、これが好きなのよ」とか。子どもからすると、こんな何気ない会話がとても大切なんです。家に帰ったら、ご飯を食べ、「今日は楽しかったね」と言い合って、ぐっすり寝る。
安心感のある雑談を重ねるうちに、子どもは、「思ってることを話してもいいんだ」と無意識に心のガードが緩んでいく。すると今まで口にできなかった不安や苦しさをポロポロと言い出す子もいる。悩みを外に吐き出してこそ、心が落ち着く。親子関係が安定してくると、「実は、ここの通信制の学校に行きたい」「このフリースクールに」とパンフレットを見せる子がいる。親の知らないころで、ある程度心身が落ち着いてきた子どもは、自分の将来について、たくさんのことを考えています。まだ安心と休養が十分でない段階で「何とかしなきゃ」と焦って親が、「ここに行ったらどう?」とパンフレットを次々持っていくと、押しつけがましくなってしまい、かえってうまくいかないこともある。
そして、親自身が1人で抱えないこと。仕事や夫婦関係、生活上のことなどの悩みを、いろんなところに相談してほしいです。悩みが軽くなれば、心に余裕が生まれ、それを子どもが敏感に感じ取る。親が元気になれば、子どもも元気になっていく。
子どもたちの声を大人たちに届けたい
もともと私は、音楽だけやっていた人間なんです。当初つくっていた音楽は、ラブソングが中心でした。自分自身も複雑な環境で育ちましたので、たぶんそれが曲のどこかに出て、感じるものがあったのか。「私、いじめ受けています」「虐待を受けてる」など、悩む子どもたちの声が、自然とSNSやメールで届くようになりました。そういったことを募集したことはないのに。たくさん読む中で勉強もしてきたんですが、やがていろんなことが見えて来て。届く声を、歌にしたりするようにもなりました。
大人が子どもの声を聴けてない。これがすごくもやもやする。この活動を始めて、もう16年になりますが、この思いは変わっていません。幸い行政、自治体とのかかわりもできました。いろんな方々の力をお借りしながら、今後も子どもたちの声を、大人たちに伝えていきたいです。
(聞き手・ライター上田隆)
<ホルンさんの作品>
【ホルンさんと行政がコラボした制作物】
- 冊子/子どもの自殺を防ぐマンガ冊子『たすけてが言えなくて』 発行・流山市

- YouTube/『子どもMessage-学校に通うお子さんのいるご家族へ』制作・柏市

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