法律が「貧困」を救うには

貧困
大阪・豊中市の小学校で体験した「インクルーシブ教育」

障害者に対する無理解を解消するため、最近、「インクルーシブ教育」の実現が、日弁連(日本弁護士連合会)でも議論されています。「障害のある人もない人も、一緒に教育を受ける統合教育」だと理解していますが、私自身詳しくない。「この機会に知りたい」と、先日、インクルーシブ教育を実践している大阪府豊中市の小学校の視察に行ってきました。

 

見学したのは、小学校5年生の授業。ダウン症、知的障害、全盲かつ車いすユーザーなどさまざまな障害のあるお子さんたちが一緒になって勉強している。授業内容は、体育で、障害のある子もない子も一緒にバスケットボールをするというものです。

 

先生が最初に「全員が参加してバスケを楽しむには、どういうルールをつくればいいか」と、4グループに分けて話し合いを指示。その際に各々が、「自分はこういうのが苦手だから、こういうルールにしてほしい」と説明しなさいと。子どもたちの議論が面白い。「障害」や「健常」に関係ない立場での提案が、どんどん出される。「シュートが苦手なので、リングにボールが当たったら点数に」「ドリブルが苦手なので、『ボールを持ったまま『2歩までOK』を『5歩までOK』にしてほしい」など。クラブに所属するバスケの上手い子に対しては「バスケが苦手な人にボールを回すように」と決めたグループも。全盲かつ車いすユーザーのいる子のグループでは、かなり思い切った議論をしていました。結論は、「①最初に必ずその子がボールに触れるようにする。②ただしその子は、決めたポジションから動かない」。②の理由が、「車いすに座ったままコート内で自由に動けば、他の子どもにぶつかる」とのこと。こうして子どもたちの話し合いで、4つグループそれぞれまったく別種ルールが出来上がったんです。

 

算数の授業も印象的でした。先生が、「合図するまで、カードに手を触れてはダメ」と、クラス全員に伝える。このカードには、全盲の子が読めるように点字が打ってあるんです。「全員に指示する必要は、ないのでは?」と聞けば、「健常だけど、自分で勝手に学んで、点字を読める子が結構いますから」と。ちなみに、点字の授業はないそうです

 

「インクルーシプ教育って、こういうことかな」みたいなイメージが持てた視察で、とても有意義でした。「いいな」と思った1つは、「相手のことを理解しよう」というスタンスになること。もう1つは、「相手と自分は違う」という認識が自然に持てること。そういう環境が子どものときからあるなら、障害者だけでなく、LDBTQ+、女性など、いろんな方に対する理解が広がっていきやすい社会になっていくのかなと感じました。

 

…やっぱり45分しゃべり続けるのは難しいので、ご質問があれば、ぜひ受けたいです。

 

【質疑応答】

インクルーシブ教育で「働きやすい職場」に

N(福祉施設職員・男性)/「インクルーシブ教育」がもっと一般化すると、社会がどんな雰囲気になっていくと思われますか?

幡野/多様な人を受け入れる雰囲気になるのはいいですね。企業でも、「ダイバーシティ・アンド・インクルージョン(人々の個性と能力に応じた活躍の場を提供すること)」という言葉が最近広がり始めています。特定の属性を排除された職場って、排除された側の人間からするとモチベーションがまったく上がらない。私も、周りの支援を受けて調整していただきながらでないと仕事ができないタイプ。いっさい調整をせずに「周りと同じようにやってくれ」と強いられたら、結構反発しますね。障害者が働きやすいということは、総体として働きやすい職場が出来上がっていくのではないかなと。もちろんインクルーシブ教育は、雇用だけじゃなく、さまさざまな分野に波及していくことでしょう。

 

法律は、個々のニーズに基づくべし

橋本(司会・ソーシャルワーカー)/「ルールってなんだろう?」と、今回改めて考えさせられました。「集団の秩序を管理するため」のものなのか、それとも「集団を構成する各々が主体的に参加するため」のものなのか。そもそも「ルールって、誰のものなんだろう?」。特に教育現場の中では、子どもを「集団」か「主体」か、どちらでとらえるかで、選択と決定の内容が変わり、相対的貧困への対応も違ってくるのではないかと。

幡野/「障害者の貧困」のテーマで投げかけたいのは、障害者の個々の立場からの視点やニーズが、現在ある法に基づいた支援制度にちゃんと結びつけば、抱える問題が解決する、あるいは少しはいい方向に行くんじゃないかということ。

橋本/法律という「道具」を、どのようにして生活の中に生かすべきか。それはもう、弁護士さんにお聞きした方がいいんでしょうね。

幡野/法律って、あくまでその方の支援のツールの1つでしかないなと思っていて。私とソーシャルワーカーとしての橋本さんが一緒に支援する当事者に当たるケースだと、支援計画の大筋は橋本さんがつくる。「ちょっとこの法律的な部分はお願いしたい」みたいな感じで、弁護士をスポット的に利用していただくのが理想かなと。この会場の中で、弁護士と連携された方はおられますか?  その上で、「やりにくいところ」「こうしたらやりやすいところ」があるなら、率直にお聞きしたい。

 

受刑者でも、身の周りの法律相談は可能

田中(第1部の講演者・生活相談員)/僕が弁護士につないだわけじゃないですけど、弁護士さんに大変お世話になったケースがあります。受刑者の利用者さんが、刑務所に服役中、自分が知らないうちに誰かの養子縁組にされ、苗字が変わっていました。別件で警察に捕まったとき、「お前の名前が違うぞ」となり、気がついたと。警察の話ですと、「誰かが、自分の借金を帳消しにするため、または架空の講座をつくるため」ということでしたが。そもそも養子縁組の手続きが、本人不在でできるのでしょうか?

幡野/役所では実質的な審査はされないので、簡単に受け付けられます。私も、偽造された養子縁組や離婚届けが無効と主張する訴訟を何度かやりました。その経験からしても、本人が刑務所で服役中にしろ、必要な書類、あるいは最低限の聞き取りができれば、弁護士が動くということはできます。委任状さえいただければ、活動ができるんですね。弁護士費用は必要ですが、刑務所にいてお金がないという方であれば、「法テラス」(国によって設立された法的トラブル解決のための「総合案内所」)という仕組みがあります。そこで弁護士費用を抑えたり、負担を減らしながら、弁護士を利用することが可能です。

 

「弁護士」を、もっと身近な存在に

橋本/私たちは「コネクトリンク相談会」というプロジェクトを行っていますが、そこでは、「ソーシャルワーカー」「地域」「弁護士」の3つの受け皿を設けています。相談してくる方は、「一体何が困りごと?」とモヤモヤしていることが多いんですね。それを受けてアセスメン(評価・分析)して、法律マター(事柄)は、弁護士さんの方にお願いするという仕組み。弁護士の先生って、とても身近な存在だということを、もっと知ってほしいです。

「風テラス(風俗の世界で働く女性たちの相談・支援組織)」の弁護士さんとも一緒に活動しています。女の子たちが、「先生、この場合、私に問題はないよね?」と気軽に相談でき、法的なアドボゲイド(権利擁護)をしてくださる。すごくありがたいことです。「貧困の連鎖」って、不平等な文化が定着して、再配分されることから生じるのかなと。だから、「法律」という身近な道具を使って、解決できることは解決していかなきゃ、なんて思いました。

 

子どもたちに「法」を教えてほしい

大山(あだち子ども支援ネット代表)/弁護士さんたちに1つ要望を出させてください! 地域コミュニティと、ぜひいろんな連携を取っていただきたい。子どもたちは、大人以上に何も知らない状態で、「法律に守られているか・いないか」も、意識すら全くなく事件に巻き込まれてしまう。私たち地域の「見守り隊」としては、事件になる前に、子たちたちに何かをつかんでほしい。そのために、もっと弁護士さんたちから、「法律で、こういうふうに自分を守ることができるんだよ」ということを身近に伝えてほしい。大人だけじゃない、親だけじゃない、子どもたちにこそ教えてほしい。

青年層が、まだ本当の子どもに性的なことをして、裁判に訴えられてしまったようなことは、地域にたくさんあるんです。一方で、親同士が話し合い穏便に済ませれば、それでもう何もなかったことになる。これからどんどん世の中が変わってきて、被害者の子どもの立場で、周りの大人たちが「訴えてあげる」という風潮になってくるとは思うんです。でも、そうしたことになる前に、子どもに「何がいけないことなのか」「法律に触れることなのか」「人間としてやってはいけないことなのか」と、弁護士さんのプロの立場で、社会に声を出していただきたいと思います!

橋本/そうですね。実は「ヤングケアラーlab」が終わった後、「弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会」から、私たちに「話をしてほしい」と研修向けの講座の依頼がありました。子どもの代理人として、「自分たちが一体何ができるのか」といつも自問しています。これからも、こうした場で、いろんな方々と対話を重ねていくのが大事かなと、改めて思いました。

(文責/ライター・上田隆)

 

【インフォメーション】

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