子どもと大人、学び合うピアノ教室

名教師

<インタビュー・福田敦子さん>

 

このピアノコンサートが始まってから、ちょうど20年。お子さんの生徒さんは、かつてに比べると少なくなっていますね。今回でいえば、5歳が2人、小学生が2人。大きくなると、塾や受験があったりするので、いつまでいてくれるのかな、というところです。お尋ねの「子どもと音楽教育」ですけど、どの程度お話できるか分かりませんが…。

 

「発表会」ではなく、「コンサート」

お子さんも5年習えば、1年目のおじさんの生徒だって「後輩」ですからね。コンサートでは、全ての生徒さんへ「演奏者に敬意を払いつつ、自身もプライドを持って演奏してください」と言ってます。また失敗しても「恥ずかしいと思うな」とも。

 

「発表会」とせず、あえて「ミニ・コンサート」とネーミングしています。聞いている人は「お客さん」、演奏している人は「演奏者」という意識を持ってほしいからです。ちっちゃい子にも、「前に出たらお辞儀をする。もうそこから演奏が始まるよ」と言い聞かせてます。

 

私にいろいろ言われることもあって(笑)、みなさん熱心です。お子さんも、4時間の全演奏を最後まで聴いていますね(幼いきょうだいが、途中で「帰りたい」と言い出さないかぎりは)。お爺ちゃんくらいの年齢の生徒さんであっても、同じ空間で共に演奏する仲間と考えてるんじゃないかな。だからどの子も、コンサートの後で結構なことを言いますよ。「なんか、あの曲は良かったなぁ~」「上手っぽいけど、『う~ん』という感じ」など。

 

子どもは、「本当に良い演奏」を分かってる

参加する子どもたち、練習は嫌いですけど、「コンサートでは、かっこいいものを弾きたい。「おじさんたちのすごいのを聞いてみたい」っていうのはあるんです。コンサートが近づけば、いきなり弾き始める。子どもの集中力ってすごいんです。「どうしてそれを普段からやらないの?」と言いたくなりますが。

 

子どもたちにとって、「かっこいい」というのは、「絶対にミスしない」とか、そういうことじゃない。プロのように大曲を弾きこなしても「よく指が回ったね」というだけなら、面白くない。やはり「意味」というか、「何かズンくる」というものがあって、「かっこいい!」になる。

 

あるコンサートの後で、小学校3年の男の子が、私に手紙をくれたんです。「僕はジャズ風が好きなので、一番最後の演奏がすごく良かった」と書いてる。それはカプースチン(ウクライナ出身の作曲家)の曲で、クラシックにジャズを融合したようなとても難易度の高いもの。誰でも挑戦できるものじゃない。弾かれたのは、50代男性の生徒さんです。私、手紙をコピーして、渡したんです。普段から寡黙な方なのですが、表情を変えて「宝物にします!」と喜ばれて。

 

大人が、子どもの演奏に学ぶ

20年選手のベテランで、クラシックでも最高度の難曲を弾きこなす、60代男性の生徒さんがおられる。その方が、「あんなピュアな音は出せないな」と、ある小学生の男の子の演奏を聞いて感心するわけです。ショパンが17歳のとき作曲した作品(「そんな年齢で、こんな傑作書くんじゃないよ!」と言いたくなりますが)で、子どもの純粋な気持ちがあってこそ、ぴったりくる。その子は途中でいっぱい間違うんですが、「今の自分はいろんな雑念があるなぁ~」と大人を反省させる何かがある。ベテランの生徒さんは、後で「この子は、こんな曲をやってみたらどうか」と、私へアドバイスもしてくれました。

 

小学生の女の子が弾いていた『仔犬のワルツ』に感化され、次のコンサートで同曲に挑戦した40代男性の生徒さんもおられました。すると今度はその女の子が、「私が弾いた曲を、あのおじさんはどう表現するんだろう?」と興味を持つ。中学受験をひかえていた子ですが、コンサート当日、最初から会場に来て、その方を含む全演奏を聴いていました。

 

上達するには、人の演奏を聴かないとダメなんです。私の教室にだけ習いに来て、その都度、「これをやんなきゃ」って宿題をこなし、自分の中だけで完結してもしかたない。とにかく、生の音を聴けと。どんな演奏でも良いところが必ずある。そこを自分の耳で直に味わってほしい。だからコンサートは、「時間がゆるす限り、最後まで聴いてください」とお願いしています。いつも何人かの生徒さんは演奏されません。「自分は弾きたくないけど、人の聴きたい」というのは、女性陣に多いです。やっぱり恥ずかしいんですよね。でも、いつも何の曲を誰が弾いたというのを、全部覚えているほど真剣に聴かれている。そうしたことが大事なんです。

 

結局、子どもも大人も、「音楽」を学び楽しむ気持ちは同じだと、私は思っているんですね。

 

「体験レッスン」にうんざり

5歳でピアノやり、バレエやり…などと、習い事が一斉に始まっている子をよく見かけます。親にすれば、その中から、興味を持つものを選ぼうという考えがある。すると、お子さんは、体験レッスンで「もうイヤーッ!」ってなるわけですよ。初めての教室で、初めての人に「こんにちは」と仰々しく挨拶し、30分はじっとしてなきゃいけない。「この子は、『体験』を5、6件やってるな」というのは、すぐにピンときます。ピアノだろうが何だろうが、それはちょっとやりすぎかなって。

 

私の教室に初めて来た子は、もう自由にしてあげる。ピアノをパーッと弾き出したら、「やってやれぇ!~」とけしかけます。ピアノの中身に興味を持ったら、「こうなってるよ~」とフタを開け見せてあげる。親御さんはハラハラされてるでしょうが、とにかくお子さんに「楽しい!」と思ってもらえばいい。

 

子ども自身に曲を選んでもらう

曲は必ず、その子自身が「弾きたいな」と思えるものを探します。「こんなのどう?」と、私が何曲か弾いているうちに、ちっちゃい子なりに好みがあって、反応するわけです。こちらから曲を押し付けることは、絶対にまずい。

 

最初、その子は、親御さんの好みの曲を選びがちです。親といっても、私からすると、一回り年下。自分たちの世代とは、普段聞いてる音楽がかけ離れている。子どもから「〇〇弾いてよ」と最近の曲を言われると、こちらが知らないことも多々。そんな曲に興味があるのは、親がよく聞いていて「楽しそう」とつられてるからでしょう。でも、こちらがつられてはいけない。今のはやりの音楽は、テンポが速くて複雑です。しかもコンピューターでつくられたものが多い。そんなガチャガチャしたものをいきなり持って来きても、子どもが本当に聴き取れているとは思えないわけです。編曲も難しいので、その子が弾こうとしても無理で、ピアノが嫌になって辞めることになってしまう。

 

音楽の入り始めは、まず「聴く」こと

レッスンの第1歩は、クラシックである必要もない。別に「これでなければ」といった型もありません。むしろ「童謡」に近いものがいいかな。言葉や音符が少ないですから。モーツァルトやベートーベンの「やさしい曲」とされるものだって、子ども用につくられているわけじゃありませんし。

 

ちっちゃい子であれば、例えば「ド」と「ソ」を私が弾いて、聴き比べてもらう。『メリーさんの羊』なんかいいでしょう。横で見ている親がノルために、そのメリーさんをジャズ風にアレンジしたり、「ドラムセット」を使ったり、ワーッとやるのはよくない。音符を1個ずつ、こちらがゆっくりゆっくり弾いて、お子さんが「ああ、こういう音がするんだな」っていうところから入っていかないと。

 

「ピアノをやろうか」という気持ちになるには、まず音符を覚えてもらった方が早い。本を、ひらがなでも読めると楽しいじゃないですか。いつまでも私が、ピアノの前で、「ドとソはここです」と言っているわけにはいかない。自分で「ド」と「ソ」を並べて、リズムをつくっていくと、自然と先に進みたくなるもの。

 

子どもが「弾きたい!」と思ったら、やり遂げる力があると実感した曲があります。アニメ『となりのトトロ』の「ネコバス」です。5歳の男の子に大うけでした。その子の場合、メロディは知っているので、楽譜は特に使わず、自分で弾けるところから弾いてもらいました。そして、私独自の楽譜をつくり、ちょっとずつ伴奏を足していく。AができたらBを足して、BができたらCを…という風に仕上げていったんです。この曲は、左手のリズム伴奏が、いかにも車輪がグルグル回転する感じになり、そこが気に入ったみたいでした。「バスの『ブブーッ』をつけてみようか?」と提案すれば、もう楽しくてしょうがない。その子がとうとう全部弾きこなせたときは、本当に嬉しかったです。

 

まだ知らない情景を、たとえで伝える

曲の中には、「ちょっといけない感じ」のメロディもあります(笑)。それを子どもにどう説明するか。荒んだ「ダウンタウン」の様子が描かれているとする。「ギャングやスリがいて、とても治安が悪くて危険な感じ」と説明しても、まだ知識がないのでイメージが浮かばない。そこでこう伝える。「疲れた感じで弾く。ダラダラ~ダラダラ~と、なんかこう靴をちゃんと履かず、ズボンもズルズル引きずって歩くみたいな」。すると、結構それらしく弾くように。

 

あと難しいのは、「男女の掛け合い」ですよね。王様がお姫様にプロポーズしますっていうシーンがある。最初、子どもは意味が分からないので、バサバサと指の運動のよう弾きますよ。「あんたねぇ、ここは『好きです』とささやくシーンだよ。 もっと気持ちをためてよ!」などと言っちゃいます。作曲家は、「ハートがぽわん」「星がピラッ」みたいことを音のフレーズで出し、「愛」を表現してますから。その一つひとつを丁寧に弾いていくと、だんだん曲が描く情景が思い浮かべられるように。あの手この手で教えるうち、子どもの方も「なんか面白い先生だな」となるんでしょうね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました