音楽に向いているか、いなか
「何歳から始めればベスト」ということはないです。一番小さい子は、4歳からスタートしたから、今5歳かな。私は経験したことはありませんが、おむつをした2歳の子が、レッスンに通うケースもあるようです。その際は、まだピアノには触れられませんから、シンバルを叩いてリズムをとるとか、「遊び」から入ることになるでしょう。でも、7歳、8歳だから、「遅かった」なんてこともない。子どもって、どの時点でバーッと伸びるかなんて、1人ひとり違う。早くから始めても、だらだらやってると、いつまでたっても上達しましせん。ちなみに、私は4歳から始めました。
「音楽に向いてる、向いてない」というのも、あまりないと思っています。よっぽど言葉を発したくない子は違うかもしれないですが、大抵のお子さんはそうじゃない。「今日あった面白いことを、誰かに聞いてもらいたい」とか、「頭にきたから怒ってやれ!」みたいな感情がある子は、「音楽が嫌いだ」とはならないはず。「音楽」は、「言葉」とほぼ同じですからね。
言葉のマグマが爆発?!
といっても、レッスン中、多くのお子さんはあまり話しません。私が一方的にしゃべってます。無反応かと思ったら、ちゃんと聞いてるんですよね。「先生、変なこと言ってるな」って。本当に寡黙な子も、何人か受け持ちましたが、驚かされたことが…。
ある女の子は、幼稚園から小学6年まで、教室ではずっと一言もしゃべりませんでした。いつもお母さんがついてきて、「お行儀良くしなさい」「先生に挨拶しなさい」と傍らで言いますが、もう本人はがんとして何も話さない。岩のように固まってしまう。中学校に入ったとき。さすがに「1人で来るべきかな」と思い、私の方から「お母さんね、レッスン中はちょっと席を外して、買物にでも行っててください」とお願いしたんです。一人残されると、その子、堰を切った ようにしゃべり始めたんです。「学校でさ、こんなことがあって、こんな子がいたんだよね…」とか、止まんなくなった。「そろそろ弾こうよ」と、こちらが注意するほど。以来、この状態が、大学生、社会人になっても続いたんです!
「ずっとピアノを続けてくれて良かったな」と思うと同時に、「子どもって、すごく分からないな~」とも(笑)。

「耳をすます」ということ
上田さんも同じ世代ですよね。私たちが子どもの頃(1970年代半ばから80年代半ば)の歌謡曲って、全部唄えたでしょ。 ヒデキ(西城秀樹)とか『また逢う日まで』の尾崎紀世彦とか、メロディーはちゃんと覚えるし、歌詞も理解できる。だけど、今の曲って分かります? 決して全部否定するわけじゃないんですけど、人間がちゃんとつくってるのかなっていう気がして。歌詞でも、「♪今日は何々して楽しかったね」というところを、「♪今日はなに、なにしてた、のしかった、ね」みたいな区切り方をするので、気持ちが全然伝わってこない。
今の子どもたちは、ゲーム音楽もそうですが、スピードのありすぎな機械の曲ばかり聞いています。表現力豊かな音楽に接しても、理解するのが難しいかもしれない。だから、私の教室に来た子どもたちには、強いて、ゆっく~り、ゆっく~り、音1つ1つをじっくり聴いてほしいんです。どの子も、音は聞こえるんだけど、普段でも耳をすまさない。特に東京の子は、騒がしい周囲の音を、全部脳に入れちゃう。それで私は、レッスン中でも、セミの鳴き声なんかが遠くで聞こえたりすると、「あれ、なんの音かな?」と耳に手を当てる。すると、子どもも「ん?」となる。自然の音に、気付いてほしいんです。
入門期のピアノ教則本『ブルクミュラー』にしても、セキレイやヒバリの鳴き声を元にした曲なんかもある。特にクラシックは、作曲家が弾いた通りを、時を経て継承していく世界。だからこそ、無駄なものがなく、自然に近い音がしているのかもしれない。そんな名曲の音と音との間には、どんな空気が流れているんだろう、なんて思いを馳せれば素敵ですよね。
なかなかそんな時間が、今の子は持てないのかな。学校に塾にと通い、いろんな情報を頭に詰め込まなければいけない。知識って、そんなにいっぱい持ってなきゃダメなものですかね? みんながみんな、同じような大人になるわけじゃなく、野菜を育てたり、魚を獲ったりする人たちもいる。その人たちの世界では、ゆったりした音が流れてたりするわけじゃないですか…。
生徒さんと共に、日々「音楽」と出会う
なぜ、この道を選んだのか?…それを聞きますか!(笑)。私、勉強が苦手なんですよ。一応、音楽学校出ていますから、きちっとした教育はある程度受けているんですね。でも、音楽が「学問だ」なんて、押し付けられるのが嫌いでした。「楽しけりゃ何でもいい」と思っているので、自由にピアノを弾いちゃう。それでよく、学校の先生から「真面目にやってください!」
と怒られてましたね。人から、「この通りに弾きなさい」と言われるのが苦手なんです。「ここで一個ミスした、マイナス何点!」「どこそこのコンサートに向け、あなたはこの曲を死ぬほど練習しなさい」っていうやり方が、どうしてもなじめない。結局、それは私には向いてなかった。だから今の仕事は、身の丈に合ってるかなと。
音楽を通して、いろんな方と知り合うことができるのは、とても貴重なことです。もし私が、普通に会社なんかに入っていたら、教室ではビシバシ言ってる生徒さんのような方が上司だったりして、?られているのでしょう。何より音楽について、学校では学べなかったことを、生徒さんたちに、日々教えていただけることが、ありがたいです。例えば「微分積分はできるが、四分音符が分からん」という方がおられると、「なぜだ?!」とびっくりするわけです。そして、「どうやったら分かってもらえるだろう?」と一生懸命考える。1つのことを教えるのに、1つ2つぐらいしか言い方を知らなかったら、もう絶対に教えられない。相当鍛えられました。
天職?…そんなことないですよ! みなさんが助けてくれるから、生き残っていてる感じかな。お子さんから大人まで、いろんな方と一緒に音楽を楽しめることが、本当に楽しいんです。私の方が、少しだけ多く知っているだけのこと。それこそ、なんで自分が「先生」なんだろうと思いますね。
(聞き手・ライター上田隆)


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