ルポvol.61-3【レジリエンス】
「トラウマを抱えた子どもたちが増えている」。会場の客席で、元小学校校長先生はそう語る。まさに「NPO法人レジリエンス」代表の西山さつきさんの講演は、そんな子どもたちの心の回復への具体的なヒントを提示するものだった。
テーマは、「レジリエンス(逆境からの回復力)」。DVなど傷つきを経験した女性を対象にした「こころのcaca講座」の内容をまじえ、「レジリエンス」の概念、方法を分かりやすく説かれた。重要なのは、脳(心)の「耐性領域」の幅を広げるということ。そして、一番の方法は、自分のありのままを受け入れてくれる「人とのつながり」という。
傷ついた人たちの回復劇を語るのは、同NPOファシリテーターで福祉施設職員の勝亦麻子さん。支援の現場で実感されたことをうかがうと、「レジリエンス」とだぶって見えたことがある。それは、「咲く花」。
※講演は、2月11日、足立区役所庁舎ホールで開催された、シンポジウム「こども”ど真ん中”プロジェクト2024」(主催/一般社団法人「あだち子ども支援ネット『未来へつながる実験室』」)にて行われたもの。
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<講演/西山さつきさん>
レジリエンスの意味
西山/今日は寒い中、お集まりいただきまして、ありがとうございます。NPO法人「レジリエンス」代表の西山さつきです。「レジリエンス」は、「何か逆境があったとき、そこから跳ね上がって来る力」「回復力」「復元力」を意味。近い言葉の「エンパワーメント」は「外から励ます力」ですが、「レジリエンス」は「私たちの中に必ずある力」と言えます。この団体は、心に傷を負った方々に対して、「自分の力で、自分の人生を輝かせて生きていこう」とサポートする活動をしています。
なぜ被害者を「☆(ほし)さん」と呼ぶか
私自身、DVの被害体験があります。その時に痛感したのは、「被害者」というレッテルがすごく目立つこと。これはDVに限りませんが、「弱っている」「傷ついている」と、一方的に見られてしまう。しかし被害者には、「強さ」という側面もあります。つらい環境の中で、「今日1日、何とか安全に生きて行こう」「この状況を何とか良くしていこう」と言い聞かせ、自身を支える内面的な強さを持つのも、「被害者」という「サバイバー」の特徴です。だから私たちは、そんな人のことを「☆(ほし)さん」と呼んでいるんですね。「キラキラ輝ける力を持っている人たち」だと敬意を込めて。
悩みや傷つきが起きるのは、人間関係の中なんです。私は、夫婦間での暴力を経験したので「DV」ですが、親だったら「虐待」、学校だったら「いじめ」、職場だったら「パワハラ」となる。では、それらがどこで癒されていくかというと、やはり人間関係の中。いい人間関係のつながりの中で、「味方がいる」「一人じゃない」と思えるようになって「レジリエンス」は発揮されていく。
アメリカで調査された「子ども時代の逆境体験」
子どもの虐待問題に関連しますが、アメリカで実施された「ACEs」という大規模調査があります。18歳までに、どの程度の逆境を体験したかという10項目の質問がある。「性的虐待を受けたか」「依存症の人が家族にいたか」「ネグレクトの経験はあるか」などですが、ここから4項目以上当てはまったときには、その後の人生に影を落とすとされます。
私が今日言いたいのは、そのスコアが高くても、悪影響が出にくい人たちの存在が、一定数存在したこと。彼らに共通した特徴は、家以外の場面での、信頼できる大人とのつながりです。先ほど、この会場での報告にあった「子ども食堂」や「バンドグループ」などの地域活動が、とても貴重な機会となるわけです。
また、逆境の環境にあるとき、そこからまず「離れる」ことも大切です。虐待のある家族から施設に避難する、いじめのある学校から転校する、といった「暴力」から身を離すことで、「暴力」自体はなくなる。でも、まだ苦しいんです。なぜかと言えば、「トラウマ」という深い心の傷つきが影響しています。身体の傷つきは、時の経過とともに癒えますが、心の傷つきはそうではない。10年50年前のことでも、傷は冷凍保存されたかのように残ります。だから、その手当をできるような場所がある、ということが大きな助けになります。
「こころのcare講座」で、らせん状に回復
私たちの活動の1つは、「こころのcare講座」です。そこでは、ご自身の身に、何が起きたか知ることをサポートしています。私がDVを経験したときは、洗濯機の中にでも放り込まれたような感覚でした。今まで持っていた道徳観や社会観では対応できないような「混乱」です。しかも、「私はダメな人間だ」と自責してしまう。でも、その心理状態が、どんな仕組みから生じるかを、知識として知っていくと、「物語」が違ってくる。「相手が非難するように、私は悪くない」「あの環境の中で、良く頑張ってきたな」と。ほかにも「相手との境界線」「自尊心」についてなど、さまざまなテーマを扱い、心を立て直していただきます。
トラウマティックな環境は、とても無秩序なんです。加害者の言うことは、日によって変わる。一方で、「…ねばならない」と拘束してくる。この講座では、そのトラウマの症状を理解したルールを設定し、「秩序」ある環境にしています。「講座は、いつでも自由に出入りしていいですよ」「予約制ではないので、気の向いたときに」と、プレッシャーにならず、リラックスした心持ちで参加できるよう工夫しています。
回復は「螺旋状」に進みます。中長期の時間もかかる。螺旋ですから、一巡りするといつも同じ問題でつまづくことになる。かつて私も、一直線で回復できるとイメージしてましたが、現実はそうではなく失望しました。でも「螺旋なんだ」と分ってから、安心したんです。少しずつでも、上に向かっているわけですから。
脳のサバイバルモードを知ろう
アメリカの神経科学者ポール・マクリーンは、人間の脳を、3つのパーツに分けて考えます(脳の三構造仮説)。「は虫類脳」は生きるか死ぬかの生命維持、「犬猫脳」は危険を察知するなど感情、「人間脳」は言葉をあやつるなど思考を、それぞれ司ります。例えば、目の前にケーキがあるとする。「食べたい!」とは虫類脳が言い、「甘いのが好き!」と犬猫脳が思い、「ダイエット中だからダメ!」と人間脳が判断。このように普段、3つの脳が協力し合って、私たちを良いコンディションにしてくれています。
しかし、危険な状況にあるときは、は虫類脳と犬猫脳が「サバイバル(防衛反応)モード」になり、命を守るために、4つの行動とらせる。①逃げる、②戦う、③凍りつく、④迎合する、です。例えば、「この辺りに、毒蛇が蛇が出る」と知らされていれば、細いものを見付けるなり逃げる。「これは何だろう?」と、人間脳を働かせてスマホで検索していたら、危ないわけです。DVや虐待などのある「逆境の環境」は、脳がサバイバルモードになりやすい。親指を4本の指で包んで握ると、脳の形(ハンドモデル)に似ますが、この指がパーッと開く感じです。「今、脳がサバイバルモードだな」と冷静に自覚するだけで、「人間脳」が戻る可能性は高くなる。
「耐性領域」の幅が、変わるとき
この「耐性領域」を拡げるためには、どうしたらよいか。やはりここでも答えは、「人とのつながり」。そして「耐性領域を広げる」ことが、「レジリエンス」なんです。大人より子どもの方が、回復力が高いと言われます。つまり、子どもにとって、「1人じゃない」「安心できる場所がある」ということは、より大事なことなんです。
支援者にこそ大切なセルフケア
支援者に認識していただきたいのは、トラウマティックな人たちに接していると、自身が「代理受傷」というトラウマを経験したような症状がでることがあります。ご自身の耐性領域が、支援活動での緊張や傷つきで、だんだん狭くなってしまうということで起こります。逆に言えば、支援者は、耐性領域を広く持つほど、支援している方たちを引っ張ることができる。だからこそ、支援者自身のセルフケアが非常に重要です。よく「49対51」と言います。支援にかけるエネルギーを「49」、セルフケアを「51」にすれば、結果、良い支援につながりやすくなる。
自分の人生を変えていこうとしたとき、まず行動を変えていこうというのは、1つあります。新しい行動によって、神経の水路を、何度も何度も掘りつけて深くし、感情と思考の流れを良い方向に導くわけです。「神経可塑性」と言いますが、大人よりは子どもの方が、行動によって変えていきやすいのです


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